mile:3 「協和か、不和か」 Concord or Discord
意味深な高二の発言に、柾章の眉は八の字に寄り、佑一のそれはあたかも夏空を漂う積乱雲の如く曲線を成している。
「……『地下組織』って? どういう事ですか? 何をやってるんですか?」
「……なっ……! それって興味持ってるようなもんじゃん」
一瞬の間髪を入れて柾章は親友を窘めたが、高二はその彼を更に窘める。
「違うヨ、吉田。興味を持つとか持たないとか、そういう問題じゃナイ」
「はぁ?」
「もう“名簿”には『吉田柾章』と『桜庭佑一』ってしっかり書いてあるんだけどね」
「吉田や桜庭は既に、あたし達の“同士”となるのが確定してるんだヨ?」
「はぁ?! 何でっスか! つーか言ってる事意味不明っスよ!」
まるで疑問を持つこと自体が不思議なように、二人は顔を見合わせる。数秒して、その様子を見た高二の片方は困ったように吐き出した。
「何でも何も、先輩が“視た”んだし……。ん? どしたトモエ?」
“トモエ”と呼ばれた二つ結びは、左手で耳を覆っている。
何かを聞いているのかのような彼女が丁度手を離し、その中にあった小さなイヤホンが見えた頃合いに、セミロングが問い掛ける。
「何だって?」
「マズイ……“終わってない”のはあたし達だけだってサ」
「えっ、他もう終わってんの?!」
「うん。それに――」
“トモエ”はふう、と一息置き、全身の力を抜いたかと思うと、ネクタイを口許に寄せ、半ば呟くように言った。
「……排除対象物ノ反応ヲ確認、出現次第掃討ヲ開始、然ル後ニ本部ヘ向カウ――以上」
それだけでも多少奇妙な光景なのに加え、彼女の声は一段どころか1オクターヴ近く下がり、
表情も先程までの言動からは想像もつかないほど変容している。それに――何かが変だ、と柾章は思った。
「……何?! “出る”の?!」
「さっきまではちょっと分からなかったけどネ、急に強くなって、こっちに近付いてきてるヨ……マァ“最初”には、丁度良いんじゃないかナー?」
「……早速“狩ろう”ってか。ハッ、上等!」
突然の態度の変化に柾章は突っ込むことも侭ならず、勿論隣の佑一が対応出来た筈が無い。
取り敢えず彼達に判りうるのは、更にややこしい状況になったこと位だ。
呆然とする二人に、“トモエ”は告げる。
「……二人とも、構えてた方が良いヨ」
「……は?」「えっ?」
表情そのままの間抜けな返答に対し、“トモエ”は、さらに続けた。
「奴らの狙いは、吉田と桜庭だからネ」
先程から俄に強まってきた“違和感”の所為か、彼女の、真っ直ぐに彼らを捉えた突き刺すような視線の所為か。
理由は分からないが、二人の背筋はぞくりとする。
「ちょっ……どういう事っスか、…………えーっと、先輩、名前は?」
「小笹巴(」
名前が分からない様子の柾章に、彼女は短く答えた。“奴ら”は、もうすぐそこまで来てるらしく、彼女の表情は硬い。
柾章が気付いたときには既に、もとより薄暗い昇降口は互いの顔も漸く見得るほどに暗くなり、一帯には緊張が漂い始める。
そして、今やこの場にいる者全員が奇妙な空気――重く圧し掛かるような、全てを覆うような、
それでいて何処か身震いを起こしそうな、得体の知れない何か――に、包まれていた。
元々“何か”に敏感な佑一は、突如聞こえ出した高音に耳を押さえ、
そのまま床に蹲(ってしまった。
焦点の合わない眼をし始めた友人に、慌てて柾章はどうかしたのかと訊いたが、
当の本人は答える余裕も無いらしく、ただ首を横に振るのみだった。
「……う わっ」
十数秒と経たないうちに、柾章の耳も“何か”奇妙な高音の支配を受け始める。
思わず両耳を塞いだ柾章の左の足下では、今にも佑一が失神しそうな表情で床に膝をついている。
「おい! 大丈夫か?!」
そう叫びかけたのは前方の、巴とは別の高二だ。
柾章たちには背を向け、異様な瘴気に正対する形で身構えながら首だけを高一二名に向けている。
「全然!」
柾章は最短の返事をした。そして、
いつの間にか彼女が両手に大きな長い鞭――見るからに攻撃力が高そうな代物――を構えているのに彼は気付き、
「……それ何スか?」
と問うた、瞬間。
「避けろ吉田!」
セミロングが叫んだのと、壁が撃砕したのは同時だった。
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