セツナ連鎖
桜の樹が、好きだった。
が、倫奈の嗜好は世のそれとは些かながら逸れていた。
多くの人間が満開の桜を称讃する一方、彼女が好んでいたのは、青々としたそれだった。
何故なのかは判らなかった。ただ、能う限りの枝葉で初夏を謳歌するその佇まいが、
美しく咲き誇る姿よりも、彼女の眸に鮮明に映っていたことだけは確かだった。
放課後、校庭の一角にある巨樹に手を掛けてみた。
小さい頃から木登りは慣れたものだったから、高くまで攀じあがるのは容易であった。
時を感じさせる大枝に四肢を預け、息を吐く。
眼前に広がるは、風薫る五月の蒼天。
そして二つとない空の下、ふと思う。
桜は毎年変わらず咲くかのように見えて、一月も経たぬうちに散ってゆくし、この照り映える葉も、晩秋には枯葉となって散るだろう。
花盛りの桜を目にする度にどうしてもそれが脳裏を過ぎるので、
純粋に桜を賞美する傍ら、消えゆく生命に思いを翳らせる己が常にある。
自分は偏奇なのかもしれない、と思ったが、それでもよかった。いつかは消える点では、人とて変わりはせぬ。
それでも、どこかで繋がっていくものだ。
だから今、ここに存る息吹に、呑まれてみようと思った。
――頬を、緑の風が撫ぜていく。
(500字)
冬月さんからバトンで頂いたお題です。
本当はもっと入れたかった情景がどっさりあるのですが、切り詰めていたら、なんだか詰め込んだ感じになってしまいました。
完璧な力不足です。情けない。
いつか時間が出来れば、入れたい部分も入れて、もう少し長めの別の作品として上げたいです。
今、とりあえずは、これが次の執筆へのエンジンになってくれることを祈っております。