十四日の爪楊枝
床のあちこちに、包み紙やら、可愛らしいビニールの小袋が散らばっている、二月十四日の放課後。
教室の埃っぽさの中に、仄かにチョコレートの香りが残っている。
しかしそれは、中学三年生の空きっ腹を満たしてくれるとは到底考えられない。
チョコレートやらプレゼントやらの話と無縁、というよりは、こんな日に掃除当番に当たってしまった自分の状況を愁い、
机の間を掃きながら、柾章は専ら食欲から来る羨慕の視線を投げ付けてやった――が、
当の包装紙供は虚しくカラカラと風に転がるばかりである。
狙い澄ましたかのように、盛大に胃袋が音を上げた。
まったく、こんなものばかり見てるからだろ、零れる吐息と共に腹の虫を窘めようとしたが、
どうにも今回は空腹感がつっこませる気力さえも奪ってしまっていて、情けなくも肩が落ちるばかりである。
と、柾章を呼ぶ声。洲之内藍だった。
先程まで押しかけてきた運動部の後輩の対応に追われ、掃除当番でもないのにこんな時間まで残っていたらしい。
そしてその右手には、プラスチック製の保存容器が握られている。
「余り物だけど、食べる?」
半透明の蓋を開けた中は、甘く芳しいチョコレート――ではなく、
「……え、唐揚げ?」
「うん。得意だし、後輩に力つけてもらいたいし。この爪楊枝使って」
「お、ありがと」
口腔に拡がる肉汁が、堪らなく旨い。
空腹は最上のソースとはいうものだが、だとしても完成度の高い逸品である。
「……うん、うまい」
「二日に一回は作ってるから」
「え」
「唐揚げ、好きだし」
「え」
他校から“コートの怪物”として恐れられているとの噂もある彼女の身体能力は、どうやら唐揚げから来ているらしい。
しかし、バレンタインに肉を持ってくるとは。
恐らく後輩を想ってのこととはいえ、どこか掴みにくい彼女らしいといえば頷けるものである。
色々と新事実を知らされて呆気に取られる柾章に、まだ残っていた分を自ら摘み食いしつつ、彼女は言い放った。
「じゃあホワイトデーは私ら部活全員分のフライドチキン作ってきてね」
――まさか。しっかりと鶏を呑み込んで、柾章は反駁の声を上げてやる。
「できるか!」
少年の声は、階下まで響き渡ったという。